クラリネットの基礎練習のやり方・メニュー
横山 由樹
クラリネット歴10年。大学にて音楽教育を専攻。 クラリネットを桜井真理、恩智聡子に師事。 カールライスターマスタークラス受講。中学、高校の吹奏楽部のトレーナーとして出張指導、運営相談等フリーランスに活動中。
ここではクラリネットの基礎練習、メニューを初心者の方向けに紹介していきます。
普段何気なくしている基礎練習ですが、この機に見直してみましょう。
「基礎練習」とは?改めて重要性を解説!
基礎練習とはそもそも何故するのでしょうか。
するのが当たり前だと思われがちですが、大切な練習時間を有意義なものにするために、意味を理解して取り組むことが上達と効率化の近道です。
あるコンクール審査員の先生から、「音楽にはメカニック、テクニック、表現力が必要」というお話をいただいたことがあります。
車に例えると、メカニックは車体性能、テクニックはドライバーの運転技術、表現力はドライバーの脳みそといった感じです。
どれか1つでも足りないと、いい音楽は出来上がりません。基礎練習とは、メカニックとテクニックを同時に身に着けていく過程であると理解して進めていきましょう。
次の項目から実際の練習方法、最後にメニューの組み立てについて触れていきます。
ブレストレーニング
クラリネットは、息が音に変わるのではなく、息がリードを振動させ、リードの振動が管体を響かせる楽器です。
「いかに息を沢山いれるか」から「効率よくリードを振動させられる息」へ意識を持ってみてください。
【腹式呼吸】
腹式呼吸と胸式呼吸という呼吸法について聞いたことがあるのではないでしょうか。
腹式だとお腹に空気を入れて、胸式だと胸に、というのは実は間違いです。人間の呼吸した息はすべて「肺」に入ります。
では何が違うのかというと、腹式呼吸とは、肺の膨らむ体積を大きくしてより多くの息を吸い込めるようにした呼吸法です。
あばら骨の下にある横隔膜で内臓を押し下げ、肺の膨らむスペースを作ります。押し下げられた内臓の分、お腹が出るので勘違いしないように気を付けましょう。
【練習方法】
メトロノームをテンポ60に設定します。
- 8拍間息を限界まで吸い
- 8拍間息を止め、
- 8拍間で吐き切る
- 深呼吸を繰り返し、体の力を抜く、
を繰り返します。 これを1セットとして8セットほど行いましょう。所要時間はおよそ5分です。
注意点は
- 息を吸う前には吐き切っておく
- 吸う息、吐く息は一定
- 常に下腹部に意識をもって、吸うときは内臓を押し下げ、吐くときは押し上げる
の3点です。
アンブシュア
アンブシュアはクラリネットを口にくわえるときの口の形のことです。楽器を演奏する際の骨組みになる大切な練習です。
アンブシュアが安定して維持できないと安定した演奏はできません。
【練習方法】
手鏡を用意しましょう。下唇は下の歯の上に軽く巻きます。 顎の筋肉を使い、巻いた唇を下に引っ張り皮膚を顎の骨に沿うようにします。
力の入れ方を間違えると梅干しのようになってしまうので手鏡で確認しながら行いましょう。 実際にマウスピースを加え、息を入れたときに形が維持できているかチェックします。
所要時間はほとんどかからないので欠かさず行ってください。
音作り
管楽器で難しい点は、演奏中の個々の口の中は見られない上に、感じ方も様々な点です。
よくない演奏法を繰り返していてもなかなか気づけず癖になってしまいなかなか直せない、ということがとても多いです。
初心者の人向けに「自分頼み」から「クラリネット頼み」な音作り方法を紹介します。
【練習方法】
マウスピース、樽(バレル)を組みたて、リードを取り付けます。
アンブシュアは作らず、軽くマウスピースを咥え、ため息くらいの楽な息を通してみましょう。 音は出ませんが、抵抗感を感じられるはずです。
何度か繰り返しながら、息の通り道がスムーズなポイントを探してみましょう。 息の通り道がスムーズなポイント=息を入れたときに効率が良いポイントです。
次にアンブシュアを作り、楽に咥えて同様にします。 少しづつアンブシュアでリードを噛む圧力を増やしていってみましょう。
リードが振動しだして、ごく弱い音の出るポイントが見つかります。
これが「クラリネットに合わせた」息の通り道、アンブシュアの圧力の理想形になるので体に覚えさせて次の項目へ進んでいってください。
ロングトーン
ロングトーンは名前の通り、長く音を伸ばす練習方法です。 目的は、アンブシュア、音色、音程、音量を一定に保つことです。
メトロノームをテンポ60にセットします。
8拍間ロングトーン、4拍間で準備とブレス、8拍間ロングトーン、4拍間準備とブレスの要領で進めていきます。
おススメは最低音ミ(D)の音から半音階で1オクターブ、少し休憩して上のもう1オクターブ、休憩してもう1オクターブと、3回に分けて3オクターブの音域の音全てでロングトーンする方法です。
【練習方法】
単音、音階、半音階等は問いませんが、必ず高音域ではなく、低音域から始めてください。
チューニング
チューニングとは、基準の音の高さを設定して、それに楽器の音の高さを合わせていく過程のことです。
吹奏楽など、多くの楽器間の音の高さを合わせることはもちろんですが、ソロの場合でも1つの基準音の設定で、ほかの音の高さを決めることができます。
音の高さのことは「ピッチ」と言います。 ここではクラリネットをチューナーを使って基準ピッチに合わせる方法を紹介します。
吹奏楽の場合は全体で指定したピッチ(440~444Hz位が一般的)に、ソロの場合は伴奏楽器(ピアノ等)のピッチに合わせていきます。
チューナーを指定したピッチに設定しましょう。 音を出せばチューナーが反応しますが、「音を安定して伸ばしてからチューナーを見る」ように意識してください。
最初からチューナーを見ながら音を出すと、無意識に口や息圧で音程を調整する癖がつきやすくなってしまいます。
【練習方法】
- チューナー、ハーモニーディレクターで合わせたい音を鳴らします。
- 鳴っている音をよく聞きながらハミング、声で音をなぞります。
- 楽器で音を鳴らします。
注意点は、合わない音の原因が自分の音程感にあるのか、クラリネットのセッティングにあるのか発見することです。
楽器のセッティングが正しくても音程感が合っていないと合わず、音程感が合っていてもセッティングが適切でなければチューニングはできません。
スケール
スケールとは音階練習のことです。
指を均一に動かすこと、音と音をむらなく繋ぐこと、そして 息はあくまでもロングトーンと同様に一定に保つよう気を付けましょう。
スケールは長調短調合わせて24ありますが、練習するたびに全部の調を練習する必要はありません。 ♯♭の少ない長調のものから練習していき、徐々にできる数を増やしていきます。
全調ができるようになったら、その時練習している曲のスケールを練習するなど、工夫すれば時短に繋がります。
アーティキュレーション
アーティキュレーションとは、音の区切り方、つなぎ方のことです。
クラリネットの場合は音の出だし(アタック)、終わり(リリース)を舌を使って行います。
このアタック、リリースを応用すると、タンギング、スタッカートからマルカート、レガートなど多彩なアーティキュレーションが生まれていきます。
【練習方法】
- マウスピース、樽(バレル)にリードを付けます。
- 音を伸ばし、舌の先端をリードの先端にごく僅かに触れさせます。
- 音が止まるはずです。(リリース)
- 舌によって音が止められても息は入れ続けています。
- 舌を外すとまた音が出ます。(アタック)
このアタックとリリースの間隔を限りなく短くしたものがタンギングとスタッカートです。
タンギングは舌を触れさせたらすぐ離す、スタッカートは舌を触れさせているリードを一瞬離し、すぐに触れさせます。 アンブシュアが崩れやすいので、手鏡でアンブシュアを確認しながら練習していきましょう。
慣れてきたら、メトロノームに合わせ、4分音符、8分音符、3連符、16分音符と細かく刻めるよう練習していきます。 舌の動きやすさにはかなり個人差が出るので、自分に合った速さで進めていってください。
メニュー例・用意したいもの
- メトロノーム
- 手鏡
- チューナー
- 音の出せるもの(チューナー、ハーモニーディレクター等、ピアノも可)
個人でする際の基礎練習メニューを紹介します。 奏者の得意、不得意に合わせて組み替えたり、練習量を調節して自分に合ったメニューを組んでみてください。
構成は、
- ブレストレーニングによる①「体の準備」、
- 音出し、リード選び、アンブシュア、音作り等の②「セッティング」、
- ロングトーン、スケール、タンギング、スタッカート等③「ウォーミングアップ」、
- そして曲に臨むための④「チューニング」
の4項目です。
4項目の内容の濃さは自由ですが、順番と抜け落ちには気を配りましょう。
また、自分で順番を組む際には矛盾が生じないように注意が必要です。
例えば、②「セッティング」でリードが選べていないのに③「ウォーミングアップ」に進めば悪い癖がつきやすくなります。
③「ウォーミングアップ」前に④「チューニング」をしたら、楽器が温まっておらずすぐに音程はずれてしまうかもしれません。
1時間コース
- ・楽器の組み立て(3分)
- ①「体の準備」
- ・ブレストレーニング(5分)
- ②「セッティング」
- ・音だし、リード選び(10分)
- ・アンブシュア確認(1分)
- ・音作り(1分)
- ③「ウォーミングアップ」
- ・ロングトーン3オクターブ(15分)
- ・スケール、テンポ100前後から8分音符で長調か短調の全調(10分)
- ・タンギング、スタッカート、リズムを変えてスケールの全調(10分)
- ④「チューニング」
- ・チューニング(5分)
~曲練習へ
15分コース
本番、コンクール等では音出し時間は限られてきます。 もちろん練習時間が短い日の部活等でも活用できるので参考にしてみてください。 4項目はどんな時でも外しません。
- ①「体の準備」
- ・ブレストレーニング(音出し時間前でもできるので終わらせておく)
- ・アンブシュア確認(これも音出し前に済ませられます)
- ②「セッティング」
- ・楽器の組み立て、音出し開始
- ・リード選び(本番の時は事前に選んで育てておきましょう)
- ・音作り(1分)
- ③「ウォーミングアップ」
- ・曲で使う調のレガートスケール(5分)※ロングトーンを兼ねているので丁寧に
- ・曲で使う調のスケールをアーティキュレーションを付けて。(5分)
- ④「チューニング」
- ・チューニング(5分)
おわりに
どのような練習でもする意味を理解して、奏者自身の状態にあったものを自分で組むことが大切です。 残念ながら一瞬でプロのような演奏技術を習得できるものはありません。
日々の日課として繰り返す中で少しづつ理解を進めてパワーアップした自分専用メニューを組んでみてください。
横山 由樹
クラリネット歴10年。大学にて音楽教育を専攻。 クラリネットを桜井真理、恩智聡子に師事。 カールライスターマスタークラス受講。中学、高校の吹奏楽部のトレーナーとして出張指導、運営相談等フリーランスに活動中。
コメント (1件)感想、指摘系はここに。相談は掲示板に。
ありがとうございます。
参考になります。 2019/06/22(土) 21:08:04